GOOD NATURE HOTEL KYOTOを立ち上げるにあたり、ホテル開業プロジェクトのディレクターを務めた株式会社GOODTIME代表取締役の明山淳也さん。ホテルをはじめとした人が集う場をつくるにあたり、事業企画を行いコンセプトや方向性を提示し、デザイン的価値に経済的価値を付加していくかを考え実行する「場づくりのプロフェッショナル」です。明山さんがGOOD NATURE HOTEL KYOTOという場所を、そしてブランドをつくり上げていくうえで大切にしたものとは何だったのでしょうか。
世界観を体現できるホテルを
明山さんはこれまで、ホテルや商業施設など「人が集う場」をつくるプロジェクトにおいて、事業企画やコンセプト構築などのはじまりから、デザイナーや施工会社の選定及び調整、実際に開業してからのコンテンツやサービスに至るまで、あらゆる方向から場づくりの企画、そしてディレクションを手がけてきました。
明山:「このプロジェクトに携わった時点で、事業は進行しておりホテルの客室面積や部屋数などの基本的な部分は既に決まっていました。そして、1階から3階と同じように“GOOD NATURE”という環境にも社会にも配慮されたホテルであるべきという方向性も見えていました。じゃあそれをどう具体的に展開していくかを考えた時、施設のキーワードである“ライフステーションをつくる”という言葉を受け取ってみると、ここを“GOOD NATURE”なライフスタイルホテルにするべきだという答えにシンプルに辿り着きました。」
「ライフスタイルホテル」とは、デザイン性の高い空間、そして宿泊に留まらない付加価値やサービスを提供することでブランドの世界観を表現し、お客さまに体感してもらおうというもの。明山さんがこのGOOD NATURE HOTEL KYOTOをライフスタイルホテルとしてスタートさせるために一番大切にしたのが、下層階にあるショッピング&レストランのフロアの商品やサービスとの連動でした。
明山:「1階から3階はお買い物をすることが楽しいフロアです。しかもここには素晴らしい考え方を持った商品ばかりが揃っている。その上にあることこそ、このホテルが持つ最大の強み、また一般的なホテルと差別化できるポイントです。その商品やサービス、館が持つ信念も含めた価値やストーリーをしっかり伝え、体感いただく場としてホテルが機能するべきだと考えました。そこで、客室にはマーケットで販売しているものを吟味して、こだわりのカカオティーやRAUのチョコレートをおもてなしのために置くことにし、バスアメニティはもちろんNEMOHAMOのものを置いています。その良さを体感してもらえれば、1階から3階のフロアとホテルフロアが体験として繋がっていく。まず、その基本的なことからGOOD NATURE STATIONそのものの良さを体感いただきお伝えしていく役割をホテルが担っていくベースを整えました。」
人が集えるコミュニティフロアに
このホテルに宿泊する体験は、他のホテルとどう違うのか––。GOOD NATURE STATIONを確固たるライフスタイルホテルとするために、明山さんがもう一歩踏み込んで提案したのがコンダクターの存在でした。
明山:「宿泊するお客さま向けのサービスとして、コンダクターというガイドの女性が常駐しています。コンダクターはホテルの一般的なコンシェルジュの役割とも異なります。彼女たちは毎日、GOOD NATURE WALKという館内ツアーを開催し、1階から3階の商品のご紹介やお店のご案内をすることで、ホテルと下層フロアを繋ぐ役割を果たしています。そこで参加されたお客さまが気になった商品を、お部屋で楽しんだり、お土産として持ち帰ったり、楽しみ方の幅を広げていただくきっかけを提供していきます。またギャラリーや京都の街に出て行うGOOD NATURE ACTIVITYの企画を考え、実行していきます。」
また、宿泊するお客さまだけでなく地元である京都の方にもホテルを日常的に利用してほしいと考えた明山さんは、4階のラウンジに人が集う目的となるものをつくることを提案します。
明山:「GOOD NATURE STATIONで販売している食品やコスメは、しっかりとしたストーリーがあるものばかりです。そうした生産者さんのストーリーを伝えられ、ポップアップイベントができるスペースがあればいいなと思い、ギャラリーを設けることにしました。お買い物の際に商品を手に取るだけでは気づくことが出来なかった、その背景にあるストーリーやこだわりを、ギャラリーの落ち着いた時間の中でご覧いただき、理解を深めていただければと思っています。さらに、大人数で囲めるデスクを置き、1階や3階のショップはもちろん、外からも講師を招いてワークショップができるスペースや、スーベニアコーナー、京都にまつわる雑誌や本、おもちゃを集めて自由に楽しめるコミュニケーションテーブルも用意しました。4階に上がる目的ができれば、宿泊しないお客さまにも楽しめるフロアになります。そうして地元の人が集うようになれば、宿泊のお客さまが本当に知りたいローカルな話を聞けるチャンスも生まれる。ラウンジがそんなコミュニティフロアになればいいなと思っています。」
こうした自由なアイデアを持った空間は、日本のホテルのあり方を変えていくきっかけになるかもしれません。
明山:「日本ではホテルは未だに敷居が高いように思われていますが、海外では待ち合わせや休憩で日常的に使い街の中で愛着を持たれていきます。宿泊しないお客さまや地元の方にも積極的にご利用いただきたいというのが僕たちの願いです。1階で買いものをして4階のHyssopでお茶しようかとか、中庭でちょっとゆっくりしようとか。日常遣いできる仕掛けのアイデアを練り続けました。」
価値観がシフトするきっかけをつくる
このホテルを通して明山さんは、「訪れた方の価値観をシフトするきっかけをつくること」を目指しています。
明山:「旅先でホテルに戻る前、コンビニでお酒を買って部屋で二次会をするなんてことはあったりすると思うのですが、このホテルなら1階に美味しい自然派ワインがたくさん揃っています。せっかくお金を使ってワインを飲むなら、こだわってセレクトされた美味しいものの方が嬉しいですよね。そして、そのワインが持つ素敵なストーリーを知ることに加え、ワインを飲むことで生産者の方にきちんと経済的にも還元されるとしたらなおいいと思うのです。環境や社会にいいことをしようという意識ではなくて、このホテルに宿泊して、美味しい・楽しいと思って選んだものが結果的に環境や社会によかったという気軽さ。それでちょっとだけ価値観が変わったらいいなと。このホテルで楽しんだことがきっかけになって、今後は環境に配慮したものを買おうかとか、生産者の顔が見えるものにしようとか、新しい前向きな消費活動に変わっていけば未来も変わるはずです。毎日実行するのは難しくても、少しずつシフトしていけばいい。そのためにもホテルがきっかけとなり館全体を盛り上げていく場所になればいいなと思いますね。」
明山淳也(あけやまじゅんや)
神戸大学工学部建築学科を卒業後、デザイナーズマンション専門のディベロッパーから UDS 株式会社を経て、株式会社GOODTIMEを2014年に設立。都市におけるホテル、オフィス、商業施設、住宅などあらゆるアセットタイプの事業企画・ディレクション・プロジェクマネジメントなどを実施。ホテルでは、これまで東京・渋谷のライフスタイルホテル「hotel koe tokyo」や歌舞伎町のデザインホテル「bespoke hotel shinjuku」、京都・京都駅のパーソナル・コンフォートホテル「THE THOUSAND KYOTO」などを手がけている。