GOOD NATURE HOTEL KYOTOに ちりばめられたデザインのエッセンス

GOOD NATURE HOTEL KYOTOに ちりばめられたデザインのエッセンス

京都だけでなく日本中でホテルの開業が相次ぐ中、どのように宿泊施設としての個性を打ち出すのかが問われています。GOOD NATURE HOTEL KYOTOもまた、“GOOD NATURE”というコンセプトをどのように客室などのデザインに落とし込むか、時間をかけてプランを練ってきました。その中心を担ったのがインテリアデザイナーのdesign farm DRiP 代表取締役 藤井崇司さんです。約20タイプある客室を含め、フロントや中庭など4階フロアの大部分のデザインも手がけています。そのデザインイメージはどのようにして形づくられていったのでしょうか。

 

ホテルをはじめとする商業施設や教育・医療福祉関連施設のインテリアデザインを中心に手がける藤井崇司さん。大手インテリアデザイン企業で経験を積み、2015年に独立し、design farm DRiPを設立。現在の事務所は奈良県生駒市の自然豊かな場所にあります。そのためGOOD NATURE HOTEL KYOTOに関わることになったのも「何かの縁かな」と笑いながら当時をふり返ります。

 

 

藤井:「実は“GOOD NATURE”というコンセプトが固まるまでに少し時間がかかり、初期の頃はオーガニックを「楽しむ」という発想がやや薄かったんです。ただ、いくら体にいいことでもストイック過ぎると続かないし、面白くないですよね。そこでデザインを考えるにあたり、まず平仮名で「ゆう」と書いて、3つの漢字を当てはめました。1つ目は悠久の「悠」。京都の長い歴史やゆったり流れる時間を感じられるデザインにしようと思ったのです。2つ目は“遊”。オーガニックやビオもストイック過ぎるのではなく、遊び心を入れたかった。そして3つ目は、人と人、あるいは人とモノを結びつけるという意味を込めて「結」。今回は何かと新しい試みばかりでしたから」

 

「Essence of Kyoto」を具現化

これらのアイデアを元に、デザインを具体化させていく中で藤井さんが意識したのが、「Essence of Kyoto」というキーワードでした。これは、ホテル全体のコンセプトメイクを担ったディレクター・明山淳也氏やホテルの開業準備メンバーとの話し合いの中から生まれてきた方向性です。京都のホテルといえども、純日本風でもなく、かといって洋風でもない、京都的な雰囲気をエッセンスとしてそこはかとなく感じられるデザイン。その匙加減に苦労しながらも、デザインや素材選びを進めていったと話します。

 

 

 

 

 

藤井:「壁素材に和紙を使用しているほか、床のナラ材はあえて節や木目が暴れているものを使っています。純日本的な建築では、通常はスギやヒノキなど木目のシンプルなものを選ぶことが多いのですが、ここではネイチャー感というか生命の息吹を感じてほしいと考えました。さらにワイピングという加工を施し、木目にある溝を深くして白い塗料を流してから染色をしています。こうすることでコントラストが付き、木目を浮き立たせているのです。また、我々は「濡れ縁」と呼んでいるのですが、各部屋にタブレットや本などお客さまの荷物を自由に置けるスペースを設けています。特に使い方を規定せず、「縁側」のようなイメージで。そんな風に日本建築の要素を取り入れています」

 

 

 

壁に描かれた自然の絵

その他にも表面に揺らぎのあるタイルや、籐編みのヘッドボードなど、部屋のサイズやタイプに応じて随所に「Essence of Kyoto」がちりばめられています。各部屋に置かれた大きなソファは、床に座ってくつろぐという日本的なスタイルをホテルで実現させるための工夫。そしてもう一つ、GOOD NATURE HOTEL KYOTOのポイントとなっているのが壁に描かれた絵です。

 

 

「お寺にある襖絵のような感じで描いてもらえたら粋だなと思って」との藤井さんの発案によるもので、土と石で自家製した絵具を使って襖絵や壁画を描く絵師・福井安紀さんが手がけたものです。桜や松など日本らしい風情の花や樹木の絵は、室内に安らぎを与えています。これらは土や石を材料にした自家製の絵具で描かれた、まさしく自然から生まれたもの。「Essence of Kyoto」を感じさせると同時に、“GOOD NATURE”というコンセプトを体現するものでもあります。

 

 

自然の中に身を置きながら

事務所の近くに小さな畑を構えている藤井さんは、毎朝、畑に出てから仕事に取りかかるのを日課にしています。今回の一連のデザインにも、こうした生活とのつながりを感じていると言います。

 

 

藤井:「以前の事務所の周りには昼ご飯を食べに行くところがなくて、スタッフはみんな駅前のコンビニで買ってきたものを食べていたんです。「せっかくこんなに自然がある場所なのにもったいないな」と思って、現在の事務所に移ってからは、畑で採れた無農薬栽培の野菜を使って、スタッフが順番に料理をして、みんなで食べるようになりました。だから、このプロジェクトに携わりながら、何が“GOOD NATURE”なのかと考えると、要するにうちの事務所が実践しているようなことだなと思ったんです。そういうことがやっぱりデザインにも影響していて、使う素材のカラートーンが自然界にあるものに近くなるなど、どこかつながっているのかもしれませんね。自然の中に身を置いているからこそ出せるデザインが、このホテルにはぴったりだったなと思っています」

 

このようにGOOD NATURE HOTEL KYOTOには、各部屋のデザインのディテールにも、さまざまな物語があります。ぜひご宿泊いただき、見つけてみてください。

 

 

藤井崇司(ふじい・たかし)

京都市立芸術大学大学院終了後、2002年日建スペースデザイン入社。2015年に独立し、design farm DRiPを設立。ホテルを中心に、学校や病院など幅広いプロジェクトを手がけ、インテリアを中心にグラフィックやプロダクトのデザインも行う。2015年、ANAクラウンプラザホテル広島の「木もれ陽のチャペル」でLeaf Awards 2015/Refurbishment of the Year Awardを受賞。事務所の近くで小さな畑を営みながら、自然に触れる感覚をデザインに活かすことを模索している。

GOOD NATURE JOURNAL編集部
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