GOOD NATURE STATIONの1階、「GOOD NATURE MARKET」の一角には、発酵食をテーマとした展示「かもし棚」が設けられます。発酵食品の詰まった瓶を仏教の曼荼羅のように並べるというもので、それはまさに発酵を使ったアートのよう。向かい合うと背筋が伸びるような、神聖さが感じられるようにと工夫を重ねられています。この「かもし棚」を、共に創り上げてくれるのが発酵食専門のカフェレストラン「発酵食堂カモシカ」の関恵さん。今回は、関さんが「かもし棚」に込める想いや、発酵を通じて伝えたい世界観についてご紹介します。
発酵という「命のいとなみ」をアートで表現
「かもし棚」とは、さまざまな発酵食を仕込んだ瓶を展示する棚のこと。「発酵食堂カモシカ」にもお店に入って正面に設置されています。「この店の主人公は微生物だということを表すためにつくりました」と関さんは言います。
GOOD NATURE STATIONのかもし棚は、発酵の世界観をさらに深く表現するために、曼荼羅をイメージした棚を設計。未熟な渋柿の果汁を発酵熟成させた塗料を使用し、発酵食を展示する中央部は漆で仕上げていきます。
関:「古代日本でお酒を醸すのは神に仕える巫女の仕事だったり、古代エジプトではビールはまさに神への捧げもの。キリスト教ではパンとワインは神の身体の象徴ともなります。世界中で発酵食品は神仏へのお供えものとなってきたようです。GOOD NATURE STATIONのカモシ棚では、発酵食とそんな神仏の見えない世界とのつながりも感じてもらえるような、ピシッとした神聖さを表現したいと思っています」
発酵とは、目には見えない無数の命の営みそのもの。その世界観を伝えるために、関さんと共に話し合いを進めています。
発酵から、命のあり方を見つめ直す
発酵の面白さのひとつは、無数の小さな命の働きを身近に感じられること。関さんは発酵の世界観を通して、私たち自身の命のあり方を見つめ直すことができると考えています。
人間の体を構成する細胞の数は数十兆個であるのに対し、体内には約100兆もの細菌(バクテリア)がいるとされています。実は人間は、自らの体細胞の数よりも多い細菌や菌類、ウィルスなどと共存・共生しているのです。
つまり、人間の命は個として独立しているのではなく、小さな命のつながりによって、生かし生かされている命の集合体なのです。「発酵の世界観は仏教にもよく似ていると思う」と関さん。仏教では、あらゆるものは縁起と因縁で成り立っていて、独立的に存在する「我」はないと考えるからです。
関:「微生物と人間が相互に補完し合うことで、人間だけでは成し得ない美味しさが生まれてくるのが発酵食。人間ばかりが偉いような時代ですけれども、微生物の命もまた命ですから。どちらが上でも下でもないと思うんですよね」
発酵食を食べることは、目には見えないたくさんの命とのつながりを感じることでもあります。カモシカが発信し続けている「命は命で元気になる」というメッセージには、人間以外の命、生態系そのものに目を向けていこうという、現代社会に対する奥深い問いかけも含まれているのです。
発酵は世界の共通言語になり得る
「突き詰めると発酵は文化そのもの」と関さんが言うように、ユネスコの無形文化遺産に登録された日本の和食を支えるみりんや酢、醤油、味噌はすべて発酵食。また、日本醸造学会は、和食を支える発酵食をつくる麹菌を、国を代表する菌として「国菌」に指定しました。発酵は、和食の味を支えてきたものでもあるのです。
関:「和食文化の街である京都は、古いものを生かし、新しいものをゆっくり取り込んでいくところが、どこか発酵に通じるように思います。発酵も京都も、掘っても掘っても何か出てくる面白さがあるから、ぜんぜん飽きないなと思います」
また、発酵は世界の共通言語にもなり得ると、関さんは考えています。発酵食の歴史は非常に古く、コーカサス地方では約8000年前のワインづくりの跡が発掘されています。その材料は野菜や果物、穀類、魚介類、動物の乳などさまざま。世界中のどの地域を見ても必ず土地に固有の発酵食があります。人類はその歴史を通して、目に見えない命と共生する知恵を育んできたと言えるでしょう。
関:「発酵を意味する言葉はどの国にもあり、世界中の人が固有の文化としての発酵食を持っています。GOOD NATURE STATIONのかもし棚にも、いろいろな国の人が興味を持ってくださるのではないでしょうか」
GOOD NATURE STATIONの一角に生まれるかもし棚では、カモシカがつくる発酵食とその発酵のプロセスをご覧いただけます。カモシカとGOOD NATURE STATIONは、発酵の世界観をどんな風に表現するのか。ぜひかもし棚にご注目ください。