「地球にやさしく環境に配慮し、安全・安心をテーマにした地域や社会に貢献するものにしたい」。京阪ホールディングスの加藤好文代表取締役会長CEOは、2019年12月2日に行われたGOOD NATURE STATIONの内覧会において、このように語りました。これまで鉄道事業を中心に、安全・安心のブランドを築いてきた京阪グループが踏み出した新たな一歩。そのフラッグシップとして位置づけられているGOOD NATURE STATIONに寄せた思いについて、加藤CEOにお話を伺いました。
京都の中心地で、将来の核となる事業を
GOOD NATURE STATIONが誕生するきっかけは、2013年に京阪グループが京都・四条河原町に土地を取得したことにさかのぼります。髙島屋京都店の南隣という絶好の一等地をどのように活用すべきなのか。半分はマンションとして販売することになりましたが(2015年)、残りの半分についてはさらに検討が進められました。その経緯を加藤CEOはこのようにふり返ります。
加藤:「四条河原町は京都でも一番の繁華街ですから、やはり商業施設だろうとは考えたのです。しかし、このような特別な場所ですから、ありきたりのものでは価値がないし、インパクトもありません。せっかくならば京阪グループとして将来に向けた新たなものを残したいと考えたわけです」
そのヒントとなったのは、2014年、有機JAS認定を受けた野菜の宅配・販売を行うビオ・マーケットを買収し、グループに加えていたことでした。
加藤:「これからの事業の核になるものを模索していたタイミングで、株式会社ビオ・マーケットという、今まで我々が持っていなかった新たなコンテンツを手に入れることができた。それを育てていく中で、そういうライフスタイルや考え方をパッケージした施設ができないかと考え始めました。素材としての有機野菜の販売はもちろんのこと、レストランでの食事、ヘルスや美容、そしてホテルです。ヨーロッパやアメリカのホテルを視察し、海外での新たな動きとして、自然にやさしいことをコンセプトにしたホテルが増えつつあることを知っていましたし、グループ内にもホテル経営のノウハウは蓄積されています。場所柄を考えても観光客の方の利用は見込めるので、すべてのフロアを商業ゾーンにする必要はないと。そのようにして、これらを総合する施設の構想がスタートしました」
新しい「安全・安心」の形
加藤CEOが語る「ライフスタイル」は、後に「BIOSTYLE(ビオスタイル)」と名づけられ、2018年に策定された「京阪グループ長期戦略構想」にも組み込まれました。ここでは、3つある主軸戦略の3番目に「共感コンテンツ創造」が掲げられています。くらしの価値を高め、環境をはじめとする社会課題の解決に寄与することで、お客さまの共感を呼ぶ商品・サービス・事業に取り組み、それを「BIOSTYLE」と呼ぶとしています。2020年で110周年を迎える京阪グループが打ち出した新機軸を、周囲は新鮮な印象を持って受け止めました。しかし、加藤CEOは決して不思議なことではないと強調します。
加藤:「鉄道会社がなぜという観点からはそう思えるかもしれませんが、安全・安心というテーマは私が社長に就任した時から一貫して掲げているものです。その意味では、GOOD NATURE STATIONはまさにこれからの安全・安心を発信する場所。ですから根底にあるものは同じです。京阪グループにとって一番大切なことは、お客さまに安全・安心をご提供し、信頼感を得ていること。それによって鉄道をはじめとしたさまざまな事業を行えるのです。不動産業も食料品販売もホテル事業も、すべて京阪のブランドは安全・安心だということでお客さまに信頼していただいている。『BIOSTYLE』もそれらとまったく同じ延長線上のもので、今まで考えていなかった新しいジャンルの安心・安全です」
一方で、こうした柔軟な発想の背景には、同時にトップとしての冷静な判断も関わっています。
加藤:「鉄道事業は当然これからも中心であり大切です。しかし、少子高齢化が進む中、国内人口は減少し、またリモートワークの普及などこれまでよりも移動が少ない時代になるわけです。そうすると、これから鉄道事業が成長していくことは考えづらい。ですから、なおさら次は何なのかという視点が大事になるのです。食品の販売やホテルなど、施設で展開していることは、これまで我々がまったく関わったことのない事業分野ではありません。ただ、やっていることの根本に『BIOSTYLE』という新しい考え方を据えたということです」
このようにして動き出したプロジェクトですが、前例のない事業に困難が伴うのは当然のこと。GOOD NATURE STATIONの場合は、プロジェクトに関わる人々の視点や考え方の方向性を合わせることに腐心したと語ります。
加藤:「『BIOSTYLE』という考え方は人によって幅があります。オーガニックと言っても極端なものから緩いものまであるように、この事業の中で一番苦心したのは、どの位置にポジショニングをするのかということ。これを長く論議していました。そこをしっかりしておかないと方向性がブレてしまう。だからと言って、基準や定義でがんじがらめにしてしまうとせっかくのアイデアの芽を摘んでしまったり、マニアックになり過ぎてしまう恐れもあります。それが、“GOOD NATURE”というコンセプトが見えてきたことによって、だいたいその方向に行けばいいのか、とわかって落ち着いた。未だに多少揺れている部分もありますが、だいたいのゾーンは共有できている。それをこれから浸透させていければいいと思っています」
施設を訪れて感じた手応え
「正直に言うと、よくここまでやったなと思います」。内覧会に際して、実際に開業した施設を訪れた加藤CEOは、このような感想を持ったと言います。
加藤:「やはりゼロからのスタートでしたからね。中でも一つ踏み込んだな、と思っているのは化粧品です。当初は自分たちで製造するところまでは考えていませんでした。今まで経験したことがない分野ですし、何か起こった時のリアクションも大きい。そこが我々にとって何より大事な安全・安心という観点からするとリスキーなところでした。しかし、実際に原材料を栽培している福岡県の工場・里山を訪れ、ここまでの思いでやるのならできるだろうと感じました。新しいライフスタイルを提案するにあたって、仕入れたものを販売するのと、自分たちが製造過程からすべて責任を持つのとでは重みが異なります。安全・安心への信頼が崩れたら、この事業は成り立たないのですから」
その上で、これからに向けての手応えも感じていました。
加藤:「これまでの時代は、作り手が自分がいいと思うものを『これでどうだ』と示し、それをお客さまが『いいな』と思って買っていました。しかし、今はお客さまも一緒になって共感し、双方向に意見を出し合う、そういう時代になりつつあります。そのためには、共感する人が増える、あるいは入ってくれる器をつくっていかなくてはいけない。GOOD NATURE STATIONはオープンしましたが、決して完成形ではないはずです。やりながら修正して、より良いものになっていけばいい。ですから、働いている方々にも自分たちが向かっているのが良い方向だと信じて、自信を持ってやってほしいと思っています」
『BIOSTYLE』を浸透させていく
内覧会の式典では、GOOD NATURE STATIONについて「京都の河原町から世界にも発信していきたい」と語った加藤CEO。今後、この施設や「BIOSTYLE」という考え方についてどのようなビジョンを描いているのでしょうか。
「一つはやはり事業ですから、継続・永続するためには収支をしっかり考えていかなければいけません。そうでなければ次の展開もできませんから。もう一つは、『BIOSTYLE』という考え方をここだけで終わらせるのではなく、京阪グループ全体に浸透させていきたい。グループ内でそれぞれ自分たちはどんなことができるのかを検討し、最終的には京阪グループはこうした考え方で事業を行っているのだと示していく必要がある。GOOD NATURE STATIONはそのためのフラッグシップです」
最後に、訪れる人たちへ向けて、「とにかく一度お越しいただいて、見て、泊まって、体験してほしい」と語った加藤CEO。共感を広げていくことで、「BIOSTYLE」や“GOOD NATURE”というコンセプトを浸透させていきたいという気持ちからでしょう。GOOD NATURE STATIONのさまざまコンテンツを通して、それらを実感していただければ幸いです。