京都から新しいライフスタイルを発信するべく、昨年12月9日にグランドオープンしたGOOD NATURE STATION。その礎ともなっている施設コンセプトをつくりあげたPOOL inc.のみなさんへのインタビュー。コンセプトづくりやキーワードについてお話しいただいた前編
に引き続き、後編ではGOOD NATURE STATIONの施設づくりやデザインについて、クリエイティブディレクターの小西利行さん、是永聡さん、アートディレクターの丹野英之さん、コピーライターの小林麻衣子さんに伺いました。
施設内を回遊できるしくみをつくる
自分の心で決めながらゆるやかに楽しむビオ=“GOOD NATURE”をコンセプトに、施設の方向性やフロアの構成、スタッフアクションなどの礎を作り上げていったPOOL inc.のみなさん。チャレンジングな試みづくしのGOOD NATURE STATIONが完成するまでの間に、困難にぶつかることはなかったのでしょうか。
丹野:「“GOOD NATURE”というコンセプトがスタッフのみなさんに届くまでは、それぞれのフロアやショップの担当の人の目指す方向がバラバラな印象でした。捉え方の幅が非常に広いビオという言葉を指針にして、みなさんがそれぞれ動いていたので、それをまとめるのがちょっと大変でしたね」
是永:「コンセプトが決まった時にはすでに開業1年前。内装デザインも進んでいたんですが、全体的にもう少し“GOOD NATURE”感……言葉で説明するのは難しいのですが、少し気持ちが上がる感じをデザインにプラスしてもらうようにしました。難しかったのは各フロアに統一感を出すことです。面白い試みとして、GOOD NATURE STATIONは各階ごとにフロアデザイナーがいらっしゃったんですね。一人ひとりの個性は発揮してもらいつつ、全体の統一感を出すためのスコープ合わせは苦労しました」
ふわりと曖昧だったあらゆることを、“GOOD NATURE”という価値観に照らし合わせながら整えていく中で見えてきたのが、1階のマーケット&キッチン、2階のガストロノミーフロア、3階のビューティフロア、そして4階のホテルラウンジフロアをいかにして回遊してもらうかという課題でした。
小林:「フロアごとにやっていることや提供しているものが全く違うし、デザイナーもそれぞれです。その面白さは、一つの施設の中にいろいろなライフスタイルの軸がいっぱい集まっていることだと捉えました。お客さまに施設内をグルグルと歩き回ってもらえば、もっと楽しんでもらうことができる。そこから『回遊』が課題になりました」
是永:「フロアごとにデザイナーが違う場合、デザイン的な回遊動線を作ることは難しいんです。ならば、ソフト面で仕掛けを作れば回遊してもらえるのではという発想に切り替えました」
小林:「具体的には、4階のホテルラウンジフロアに常駐するコンダクターによる館内ツアーや、ホテルにショッピングバッグを置いて1階のマーケットでお買い物を楽しめるようにするといった館内での体験をプラスしていきました」
モノを買うことが始まりになる時代
回遊という新たなキーワードを可能にするため、すべてのデザイナーに依頼したのは「分断してしまわないデザイン」。例えば1階なら、マーケット&キッチンの市場食堂的な賑わい→誰もが利用できるモダンなイートインスペース→シックなレストラン&バー「ERUTAN」と、入口から奥に進むにつれてにぎわいが徐々に落ち着いていきます。
是永:「ギリギリのタイミングでしたが、マーケットから一番奥のERUTANまでがグラデーションになるような設計をするという視点を、デザイナーさんにそれぞれ依頼できたのは大きかったですね」
小林:「回遊という課題があったので、フロアを分断しないようにこだわりました。フロア内は縦も横も、とにかく分断させないことで、館内でのすべての体験を大切にできると考えました」
体験することの面白さや大切さについて、モノが売れていくだけの時代は平成で終わったと小西さんは話します。
小西:「今はモノにはコトが付いてないといけないと思うんです。平成まではモノを売るのがゴールだと思っていたけど、令和の時代はモノを買うことがスタートになる。つまり、モノを買ったその後の話の方が重要になっているんです。モノを買って、それをどうやって生活に取り込むのか、それで何を楽しむか、どういう風な暮らしをするか。そういう暮らし方への問いをテーマにしているのがGOOD NATURE STATIONです。それはすべて体験から見つかるものなので、体験がないと話にならない。モノだけを買うならECでいいんです。まずはその場所に行って幸せだなっていう感覚を持ってもらわないといけない。これが体験です。そのためには物語が必要になる。商品やサービス、施設を通して物語をどう伝えるかが大事ですよね」
丹野:「僕たちはこれまでも商業施設を手がけてきましたが、ユーザーのアンケートを取ると、ほしいお店にリストアップされるのは大型量販店がほとんどです。その線でいくと利益としては申し分ないのですが、街の至るところにある景色と同じものができてしまう。ユーザー視点を取り入れるだけでなく、今後はこちらから新しいことを提案していかないと未来へ進んでいかないと思うんです。そういう意味で“GOOD NATURE”は、単なる施設の名前ではなく思想的なもので、ここを拠点としてそういう考えが広まってほしいという思いも込めています」
京都というエッセンスを加味する
GOOD NATURE STATIONのベースを作り上げていく中で、新しい気づきもあったと小林さんは話します。
小林:「すごく勉強になったのは、京都は伝統的でコンサバな一面を持つ一方で、革新的な街でもあること。価値観のるつぼで、海外からいろいろなものを取り入れ、混沌としながら歴史を重ねてきた。そう考えると、GOOD NATURE STATIONの新しいオーガニックスタイルを提案する感じは、すごく京都らしいと思えました。和のイメージだけでなく、常にその先端の新しい空気を包み込んで表現していくのが京都らしさだなと私は解釈しました」
是永:「そもそも“GOOD NATURE”とも関わる自然との共生について言えば、京都は日本で一番その知恵が蓄積されている場所ですよね。そこでデザインコンセプトには『WONDER OF NATURE with essence of Kyoto』と掲げて、和の雰囲気をストレートに表現するのではなく、京都のエッセンスを加味しようと試みました。その結果がデザインに反映されているなと思います」
さまざまなキーワード、コンセプトの上に開業したGOOD NATURE STATIONをPOOL inc.のみなさんは今、どのように見つめているのでしょうか。
丹野:「施設としてもいろんな実験ができると思うんですよ。4階から上がホテルで1階から3階までは多彩なアレンジができて、いろいろな商品やサービスの提供方法、体験の材料を提供できる。まさに“生きている施設”だから、これから先もどんどんトライをしていけるとより面白くなると思います」
小西:「まさに2日前にも行きましたよ(笑)。バーにいました。楽しい空気感のある1階から4階まで、それぞれ違う空気感のフロアが積層されている感じは素敵だなと思いましたね」
是永:「これからも施設のさまざまなチューニングのサポートはしていく予定です。例えば4階のあの素敵な空間で定期的にイベントをやって、その存在に気づいてもらうとか、いろいろなことに思いを巡らせています」
心と体にいいものを、自分の心でよいかそうでないかを軽やかに選択していける自由さ。そしてその心を持ったライフスタイルを心地よく続けていけること。そんな日々を積み重ねるためのアイデアの発信地として、私たちGOOD NATURE STATIONも一歩一歩進んでいけたらと思っています。
POOL inc.