「Hyssop」をはじめGOOD NATURE STATIONのレストランやカフェなどの器には、京都・山科にあるアトリエ&ショップ「トキノハ」で制作された「清水焼」が多く使われています。シンプルながら存在感を感じられる作品はどのように生み出されるのでしょうか。その舞台裏や清水焼への想いを、「トキノハ」のオーナーで陶芸家の清水大介さんにうかがいました。
清水焼とは時代を表すもの
GOOD NATURE STATION4階の「Hyssop」をはじめ、ホテルの客室に備え付けの茶器など、館内のあちこちで、シンプルで素朴な味わいを感じさせながらも、存在感のある器を目にします。これらはすべて清水焼の清水大介さんの作品です。
清水さんの作品は、料理との相乗効果を生むことでも知られています。プロの料理人からの依頼は引きも切らず、オーダーメイド専門ブランド「素—siro」も立ち上げました。試作した器に料理を盛り、注文者はもちろん周りの人たち意見を取り入れながら微調整を厭わない姿勢は、清水さんの代名詞にもなっています。
清水:「木工でもガラスでも、この1本の線が、この絵柄がなければいいのに…と思う時はありませんか。作り手にとっては個性を出すための線や絵柄でも、使い手にとって不要なら意味がない。そんなことを考えていた頃、同じ指摘をしてくれる友達が周りに結構いたんです。そうして意見交換するうち、よりシンプルに、料理を活かす器づくりを心がけるようになっていきました」
そこには清水焼の伝統も関わっています。そもそも清水焼には大まかな定義はありますが、決められた土もなければ型もありません。全国から選りすぐった陶土を用いて、愛好家の求めに応じるスタイルで地位を築いてきた稀有な産地です。
清水:「清水焼は時代を表す焼きもの。ここから何かを生み出してやろうという気概を持って、全国から土を探し出して最高の品を焼き上げる。その精神性こそが清水焼なのだと僕も最近思うようになりました。技法は大事かもしれませんが、大切なのは先の100年。伝統は守りつつも、今よりもっといい何かがあるなら、過去を捨ててでもゼロベースで採用するのが真の在り方だと思います」
このように使い手の思いを器に反映させるようになったことには、「トキノハ」というアトリエ&ショップを持ったことが大きいと清水さんは振り返ります。
清水:「作り手の展覧会に来てくれるのは作品に興味を持ってくれる人ですが、アトリエには僕のことをまったく知らない人も来る。中にはフワッと全体を眺めて、作品を手に取ることなく帰る人もいます。作り手は批判より無反応の方がよほど辛い。そんなことが何度も続くと、『何が違うんだろう』と考えるようになる。アトリエでの自問自答が成長を早めてくれた気がします」
ものづくりの面白さに魅せられて
高校生まではサッカーに没頭していたという清水さん。卒業後は京都府立大学環境デザイン学科に進学します。しかし、江戸中期以来続く清水焼の名跡である5代目清水六兵衛の曾孫が、陶芸以外の道に進むことに反対の声はなかったのでしょうか。
清水:「父は陶芸一族の生まれではありますが、京都の北の住宅街に住む一陶芸家というスタンスだったので、跡を継げと言われたことはありませんでした。むしろ建築を学ぶことについて、母ともども諸手を挙げて賛成してくれました。でも、大学でプロダクトデザインなども経験するうち、改めて『親父は面白いものづくりをやっているなぁ』と感じられてきたのです。一方、建築は実は制約が多く、自分の好き勝手にできる部分は少ないことがわかってきた。そこで大学卒業後、京都府立陶工高等技術専門校に入りました。修了後の2005年からは、数々の受賞歴を持つ陶芸家・猪飼(いかい)祐一氏に師事。作家を目指して修業する日々を送りました。
清水:「でも、今振り返ると、陶芸作家という生き方が大変な時代に突入し始めた頃だったのかもしれません。猪飼先生から薫陶を受けながら、自分自身の中から絞り出すような思いで焼きものに向き合おうと、懸命にその背中を追いかけました。ただ、その先に見える景色は、先生が今見ていらっしゃるものとは違うかもしれない。はっきり言えば、陶芸で食べていけるのかすらわからない。そんな状況でも自分は伝統工芸的な作品を生み出したいのか、そこが自分の目指すべき地点なのかどうか、おぼろげながら考えていた気がします」
そして、2011年に奥様の友恵さんと共に「トキノハ」をオープン。専門学校の同級生である友恵さんは、「トキノハでは」主に絵付を担当されています。
清水:「妻は京都市立銅駝美術工芸高等学校から造形短大を卒業後、陶工高等技術専門校の図案科に入り絵付を学び、修了後には絵付職人として働いていました。その後、ろくろ技術も習得するため陶工専門校に戻り、またその後に釉薬の研究をする施設に通うなど素晴らしいキャリアの持ち主です。結婚後は北山大宮に一軒家を借りて2人で作陶しながら、生活のために陶芸教室も開いていました。ちなみに“トキノハ”は紫竹西桃ノ本町という町名からの着想。紫と桃、色が2つもあるのが面白くて、紫がかった桃色を意味する朱鷺色の別名をつけて、“トキノハ陶房”と命名しました。清水焼団地に移転する時、いろいろな意味で躊躇する僕の背中を押してくれたのは妻でした」
陶芸におけるサスティナブル
現在、清水さんは、自分よりも若い世代の職人3人と共に、アトリエに併設された工房で作品づくりに励んでいます。
精力的に活動を続けてきた清水さんが、GOOD NATURE STATIONとのプロジェクトに取り組み始めたのは4年ほど前のことでした。“GOOD NATURE”というコンセプトに触れ、それを機に少しずつサスティナブルやエシカル消費について意識するようになったと話します。
清水:「土は一度焼くと元には戻りません。気に入らないからと割れば、それは産業廃棄物になってしまう。だから僕たちは責任を持ってものをつくらなければいけません。自分のブランドを守るために納得のいかないものを捨てるという行為を全否定はしませんが、できればそれをしない社会の方がいいんじゃないかと」
そうした観点からスタートさせたのが、アトリエでのアウトレット品の販売です。
清水:「作家性を保つという意味で、B級品であるアウトレットを売ることに疑問を持たれることもあります。でも、僕の中ではゴミを増やしたくないという気持ちの方が強い。たとえ100円でも要らないものは買わない時代にあって、お金を出してくださる人がいるということは、必要とされていることなのかなと解釈しています」
2018年には「清水焼の郷まつり」に関連した企画として「トキノハ エシカル マルシェ」を開催しました。出店した飲食店のフードやドリンクを、お客さんが清水焼の陶器で飲んだり食べたりできるというもの。使い捨てのプラスチック容器を必要とせず、かつ本物の焼きものの良さを実感してもらえるユニークなイベントです。
清水:「エシカルについて考えるようになったのは、GOOD NATURE STATIONとお付き合いするようになってからです。2019年には3,000人の方にご来場いただきましたが、僕たちのような少人数では対応しきれない規模になっているので、GOOD NATURE STATIONに場所を移して開催する計画もあります」
また、GOOD NATURE STATIONと共同でアクティビティを開催するアイデアなど、想像は膨らんでいます。
清水:「例えば、宿泊者の方をアトリエにお連れして、短時間で焼成できる楽焼に挑戦してもらうといったプログラムを考えています。そうして完成した器をホテルに持ち戻り、そこで料理を盛りつけて食事ができたら面白いんじゃないかな」
常にブラッシュアップを求め、新しいことへのチャレンジを欠かさない清水さん。その中でも、器とは生活に寄り添うものであることを忘れたくないと言います。
清水:「やはり器は使ってもらって、愛着を感じてもらってこそ。それ以上でもそれ以下でもありません。誤解を恐れずに言うのなら、しょせんは土くれ。心を込めてつくっているので、適当に扱われたら嫌な気持ちになるのはもちろんですが、たいそうに崇められるものでもないと思っています」
GOOD NATURE STATIONやGOOD NATURE HOTEL KYOTOでは、さまざまな場面で清水さんの器に出会うことができます。料理やドリンクを味わいながら、清水さんのこうした想いにも触れてみてください。
清水大介(きよみず・だいすけ)
1980年、五代目清水六兵衛の孫清水久の長男として生まれる。2001年京都府立大学環境デザイン学科卒業後、京都府立陶工高等技術専門校へ進む。その後、陶芸家・猪飼祐一氏に師事。2011年、山科区の清水焼団地に工房を併設したアトリエ&ショップ「トキノハ」を立ち上げる。つくり手としてはデザイン、ロクロ、釉薬掛けなどをこなす。