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北山杉の間伐材から生まれる100%天然素材の香り。 循環型社会に貢献するアロマオイルづくり。

北山杉の間伐材から生まれる100%天然素材の香り。 循環型社会に貢献するアロマオイルづくり。

杉乃精|村山寛さん

 

日本の国土の約7割は森林。そのうち約4割は人工林です。自然のままに成長していく原生林とは違い、人工林は人間が手を入れて育てていかなければなりません。とりわけ、杉や檜などは成長に合わせて間引きや枝打ちなどの間伐が必要不可欠です。

 

ところが、1990年代以降、間伐材の需要が減少すると森林に放棄され、洪水時に流木となるなどの被害を生んでいます。また、そもそも間伐が行われず、木が正しく生育できずに地面にしっかり根を張れないまま育つと、山が雨水を蓄えることができなくなり、山崩れや倒木の原因にもなります。

 

こうした問題が全国で見られる中、北山杉の間伐材を有効活用して精油づくりを行っているのが、京都市右京区京北(けいほく)の「杉乃精」の村山寛さんです。今回は、GOOD NATURE STATIONが村山さんと共に進めている循環型社会を実現するものづくりについてご紹介します。

 

豊かな自然に触れ、精油づくりをひらめく

 

京都市内から車で約1時間。杉が植林された山あいの田んぼを流れる水路のほとりに、銀色の煙突が輝いています。ここが「杉乃精」の村山寛さんの工房です。

 

村山さんは生まれも育ちも京北町。高校卒業後しばらく林業に従事したのち、国家公務員に転職して故郷を離れました。ところが、50歳を過ぎた頃、実家に帰省した村山さんは、ふと京北の自然豊かな風景に心動かされます。

 

村山:「『京北はええとこやな』と思ってね。町とつながりながら、ここで何かできないかなと考え始めました。一度、離れたからこそ地元にある資源の価値に気づいたのだと思います。ずーっと京北にいたら、精油づくりの仕事はしていないでしょうね。間伐した杉の枝を見ても、そのありがたみがわからず捨てていたかもしれません」

 

精油とは植物の葉や花弁や根などに貯えられる揮発性の油で、大量の原料からほんの少ししか抽出することができません。それぞれの植物に特有の香りと有効成分があり、化粧品やアロマテラピーに用いられています。

 

村山さんが精油に注目したのは、間伐した杉の枝を燃やしていた時。ボトボト落ちる油分に気づいて「これを使って何かできるんじゃないか」とひらめいたのだそうです。早速、自宅の蒸し器で試してみたところ、「耳かき一杯分くらいしか採れなかったよ」と当時をふり返って笑います。

 

木も、水も…地域資源を循環させるシステム

 

「杉乃精」では、水蒸気蒸留法という方法で、触媒などは一切使わずに天然素材100%の精油を抽出しています。まず、圧力を加えた鍋で水を沸騰させ、水蒸気によって原材料に含まれる精油成分を気化させます。この時の水蒸気を冷却することによって精油として液化させています。

 

村山:「原材料は間伐材を粉砕したもの、蒸留に使うのは地下水、釜を焚く薪は廃材や山に放置された残材などを利用しています。水蒸気を冷やすには工房のそばにある水路の水を使っていますし、精製後の原材料の絞りかすは畑の肥料として土に還しています。京北の自然をすべて無駄なく使い切っているんです」

 

 

通常の場合、廃材や残材は産業廃棄物として扱われるため、処分するには費用が発生します。ところが、「杉乃精」に持ち込めば、精油づくりの燃料として引き取ってもらえます。村山さんは、地域資源を無駄なく循環させる新しいしくみをつくり出したのです。

 

ちなみに、「杉乃精」の蒸留システムはすべて手づくり。底を抜いて網を入れた業務用の寸胴鍋に原材料を入れ、湯を沸かした同じサイズの寸胴鍋の上に重ねます。循環効率を考えて蓋には丸いボウルを採用。より良質な精油をより多く蒸留するため、村山さんは試行錯誤を繰り返してきました。

 

 

村山:「11月の終わりからは柚子の精油をつくるのですが、柚子は重たいので鍋にたくさん入れると下の方がぺしゃんこになってしまう。そこで、鍋の中に3段の仕切りを作って下に加重がかかり過ぎないように工夫すると、まんべんなく蒸気が回るようになりました。また、蒸気を冷却するパイプを短くすることでロスが減って、当初に比べると2〜3倍の精油が採れるようになりました」

 

そうやって夜明けから日没まで、手間ひまをかけて釜を焚き続けても、採れる精油の量は多くはありません。原材料によって異なりますが、油分を多く含む杉でも、丸1日かけてせいぜい500〜800ml。とても貴重なものなのです。

 

夢は循環型農林業のしくみを広めること

現在、「杉乃精」の精油ブランド「京乃香-Kyonoka-」シリーズは、北山杉、クロモジ、柚子、山椒の4種類を展開しています。北山杉は村山さん自ら山に入って枝打ちしたものを使い、クロモジは宮津市の世屋(せや)高原で間伐されたものを購入しています。

 

 

村山:「世屋高原には広葉樹の多い森があり、地元の高校がクラブ活動として山掃除を行った時に伐採したクロモジを買い取っています。私は原材料を手に入れることができ、地元には山を管理するためのお金が入ります。地域貢献にもなっていると思いますね」

 

村山さんのところには、全国から「精油づくりのノウハウを教えてほしい」という相談が舞い込むようになりました。訪れる人々に、村山さんは「杉乃精」の水蒸気蒸留システムの作り方を惜しむことなく伝授。京北で完成した循環型農林業のしくみを日本中に広げていこうと努力しているのです。

 

村山:「人からは『なぜ特許を取らないんだ』と言われますが、このしくみが各地に広がり、本来は捨てられるはずの木材が循環し、荒れている山がきれいになるのが私の一番の望みなんです」

 

 

GOOD NATURE STATIONでは、現在、「杉乃精」の精油を原材料に用いた商品を開発しています。また、「杉乃精」のオリジナルブランド「京乃香 -kyonoka-」の精油シリーズも取り扱う予定です。私たちは、これらの活動を通して、100%自然素材の香りをお楽しみいただける商品を提供するだけでなく、間伐材の再利用という社会的課題の解決や循環型社会の実現に取り組んでいきます。

GOOD NATURE JOURNAL編集部