株式会社近江園田ふぁーむ
食品の製造・加工・流通・消費などの際に発生する「食品廃棄物」。日本では、その量は1年間で約646万トンにも上ると言われています。
こうした問題に対し、GOOD NATURE STATIONでは、施設内で排出される食品廃棄物を農業用肥料として活用することで、循環型社会を実現し、持続可能な開発目標(SDGs)の達成を目指した取り組みを進めていきたいと考えています。
そのパートナーとなってくださるのが、滋賀県近江八幡市で農業を営む「近江園田ふぁーむ」の園田耕一さん。今回は、食品廃棄物の堆肥化による循環型農業を実践している園田さんの取り組みについてご紹介します。
農業は「土作り」から。農薬をできるだけ使用しない米作り
びわ湖の水の恵みを受けた農業地帯である近江八幡市で生まれ育った園田耕一さん。32歳の時に勤めていた会社を辞め、家業である農業を受け継ぎました。先祖伝来の農地に加え、高齢化や人手不足などを理由に離農した近隣の人たちの農地も管理するなど、現在は合わせて213ヘクタールの土地で米・麦・大豆を作っています。
2018年からは無農薬/有機栽培の野菜も手がけるようになりました。園田さんと一緒に働くのは、家族や親戚も含め14名の従業員のみなさん。そのうち9名は20~30歳代の若者で、中には米・食味鑑定士、ごはんソムリエ、お米アドバイザーや野菜ソムリエなどの資格を取得している人もいます。
幼い頃から地元の人たちが大切に作物を育てるのを目の当たりにしてきた園田さんの信念は、「生きた土が命を育む」というもの。「先輩方からお預かりしている農地を、やせた土地にはしたくない」と、化学肥料はできるだけ減らし、有機資材(肥料)にこだわった農業を続けてきました。
また、「田作りは畔(あぜ)作りから」との考えから、しっかりとした畔を作ることで、「近畿の水がめ」とも呼ばれるびわ湖に濁水を流さないよう心がけています。さらに、米作りの大敵であるカメムシの防除にも、農薬を使わずリュウノヒゲというカメムシの嫌いな臭いを発する植物を利用するなど、環境面には充分に配慮した農業を行っています。
こうした取り組みによって、2002年には滋賀県の「エコファーマー」に認定。園田さんの名前から「園」と「耕」の字を取り、また「縁幸」の意味合いも持つことから名づけられたブランド米「えんこう米」も好評を得ています。
「食品ロス堆肥」を活用した循環型農業
そんな園田さんに、ある転機が訪れます。それまで長い間、抗生物質が入った飼料を与えられていない排卵鶏の糞を堆肥として使用してきましたが、その信頼を覆すデータの存在が新聞で報じられました。
安全性に疑問を抱いた園田さんは、別の資材を探し始めます。そんな時、近江八幡市を拠点に循環型社会の実現を目指して活動する日本食品リサイクルネットワーク関西支部の吉田栄治さんから、食品廃棄物を利用した「食品ロス堆肥」を活用できないかという相談を受けました。
吉田:「食品ロス堆肥とは、学校や病院、企業の社員食堂などから排出された食品廃棄物を専用の装置で処理し、堆肥としてリサイクルするというものです。その堆肥を使って農家の方が作物を育ててくだされば、食品廃棄物の削減につながります。さらに、そうしてできた作物を排出先である企業や学校に還元するサイクルができれば、循環型農業のシステムを確立できるのです」
排出先である事業所による管理が行き届いていれば、そこから出る食品廃棄物から作られる堆肥は安全性の高いものになり、生産者にとっては安心して使える堆肥が安価で手に入ります。これを聞いた園田さんは驚きます。
園田:それまでまったく知らなかったのですが、環境を大切にする素晴らしい取り組みだと思いました。堆肥の元になる調理くずや食べ残しは非常に安全性が高く、調べてみると以前使用していた鶏糞の堆肥とも成分が近い。これなら土づくりのためにもなると思いましたね」
こうして2004年からスタートした食品ロス堆肥は、園田さんも想像しなかった結果をもたらします。それまでは見られなかった、美しい自然環境でしか棲息できない水生生物が田んぼに見られるようになっただけでなく、米の美味しさを表す食味値は平均値を大きく上回る数値を獲得したのです。
また、立命館大学の調査により、微生物が一般的な土地の数倍も含まれていることがわかるなど、土壌が豊かになり、今まで以上に美味しい農作物が育つようになりました。土づくりを大切にしてきた園田さんにとって、これほど喜ばしいことはありませんでした。
社会問題の解決と安心・安全な農業を両立
現在、近江園田ふぁーむでは滋賀県内の企業・学校・病院・ホテルなど5つの事業者と連携し、食品ロス堆肥を活用したサイクルを実現しています。安心・安全な農作物が採れるだけでなく、食品ロスという社会問題の解決につながることから、園田さんの元には国内外から多くの視察が訪れるようになりました。
園田:これからもっと多くの人たちと連携し、この取り組みの輪を広げていきたいと考えています。そんな中で、GOOD NATURE STATIONが関わってくれるのはとても嬉しい。たくさんの人が集まる施設が賛同することで、今まで以上に多くの人が食品ロスの問題に気づき、私たちの取り組みに注目してくれることを期待しています」
GOOD NATURE STATIONでは、食品ロスや食品廃棄物の堆肥化を通じて施設から出るゴミの排出量を削減し、それを農業に活用するエコサイクルを確立することで、持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けて取り組んでいきたいと考えています。