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自然の恵みをたっぷり受けた、 テロワールの感じられるワインを。

自然の恵みをたっぷり受けた、 テロワールの感じられるワインを。

ミシュラン二ツ星、シンガポール最高峰と賞賛され、惜しまれつつ閉店したフレンチレストラン「アンドレ」の初代シェフソムリエが、日本人であることをご存じでしょうか。それは長谷川憲輔さん。この道28年のベテランインポーターであり、GOOD NATURE STATION1階のマーケットにできるワインコーナーのセラーの仕様や、ワインリストのセレクトはすべて長谷川さんが行っています。そのユニークな経歴やワインのセレクトに込めた思いをご紹介します。

 

フランス文化への興味からワインの世界に

大学でフランス語を専攻したことからフランス文化への興味が芽生え、卒業後はワイン業界に進もうと決めた長谷川さん。ただ、ソムリエを目指すつもりはまったくなかったと話します。

 

長谷川:「大阪のワイン輸入会社に就職し、買い付けのため、フランスを始めヨーロッパ各地に足を運び、試飲をして商談をする毎日でした。当時はまだバブルの余韻がある状況でしたが、ボルドー一級シャトーのワインが1万円ぐらいで買えました。今はその10倍ぐらいするでしょうか。おかげでいろいろな体験ができました」

 

世界を走り回る日々を約7年間続けた後、神戸のワインショップに転職。そこで、当時はビオワインと呼ばれることが多かった自然派ワインと出合います。

 

長谷川:「大規模なショップではありませんでしたが、神戸では一世を風靡した存在で、私はトップレストランのソムリエたちにワインを売っていました。当時はまだ“走り”だった自然派ワインを深めたのもその店で。5年半ほど過ごしました」

 

シンガポールでの貴重な経験

30代半ばにさしかかった頃、シンガポールに開店する予定の日本料理店でソムリエとして働かないかとの誘いが来ます。不安はあるものの、失敗してもいいつもりで長谷川さんは思い切ってシンガポールに渡ります。数か月後に日本料理店は開店。新たな日々が始まりました。

 

長谷川:「当時のシンガポールでは、、お金持ちが高級ワインをバンバン買って自宅で飲む、そんな存在でした。そこに私が自然派ワインを初めて輸入し、オープンしたばかりの日本料理店で提供をスタート。2006年のことです。それから10年が経った2016年にナチュラルワイン専門のバーがオープン。今では3軒ほどに増えています。ゆっくりですが、確実にファンが増えているのは喜ばしいですね」

 

さらに長谷川さんはその後の人生を左右する新たな出会いに恵まれます。

 

長谷川:「かのアンドレ・チャン氏が食事をしに来たのです。彼はシンガポールではすでに有名シェフとして知られていましたので、私がフランスから輸入した、ちょっとユニークなワインを薦めました。けれども特に感想も言葉もなく、淡い反応だったので、ワインには興味はないんだなと思いましたね」

 

半年ほどたった頃、チャン氏から「ランチに行かないか」という誘いが来ます。有名シェフとのランチに心逸った長谷川さんでしたが、同行したのはラーメン店。とりとめのない話をして別れますが、しばらくして「コーヒーでも」と誘われます。

 

長谷川:「何を考えてアンドレが私をランチやコーヒーに誘うのか、その真意がわからないまま3回目に会った時のことでした。実は、自分の店を開こうと思っている。ついてはその店のソムリエになってくれないかと言われたのです。他店にあるようなワインリストは要らない。自分が求める、他店にはないワインリストが作れるのは君だけだと言われました」

 

華々しくオープンした高級フレンチレストラン「アンドレ」の初ゲストは、シンガポール建国の父と言われた、リー・クワン・ユー氏でした。

 

長谷川:「ソムリエとしてのサービス経験は豊富とは言えなかった当時の私が、ニュースで見るような要人をもてなすことは大変なプレッシャーでしたが、世界に7本しかない特別なシャンパンをサーブ。微笑んでいただけたことは今でも記憶に残っています」

 

ワインは野菜や果物と同じ

アンドレ氏が、かねてから公言していたハッピーセミリタイアを実行に移し、2018年に「アンドレ」はクローズ。その少し前に、長谷川さんも激務から離れることを決意し、帰国。現在は28年間の経験を生かし、レストランのワインリスト作りやアドバイス、スタッフ研修やセミナーなどを行っています。

 

セレクトを担当するGOOD NATURE STATIONのワインコーナーには、フランスとイタリアのワインを中心に約80アイテムが並ぶ予定で、中心になる価格帯は3,000~5,000円。1階に設けられるテイスティングバーには16種の試飲ができるマシーンも設置します。

 

長谷川:「ワインはボトルに入っているので工業製品と思われがちですが、わたしは農作物だと思っています。野菜や果物に近い存在。ですから、気候や醸造家によって味も個性も変わります。今回、私は信頼できる造り手のワインだけをセレクトしました。彼らは、たとえどんなに天候が悪くても、凝縮した味でなくとも軽やかな中に旨みが潜んでいるワインを造ります。クオリティが高く、自然の恵みをたっぷり受けたもの、小規模醸造家が仕込んだ一般には流通していないワインもセレクトしています。なにより大事なのは美味しいと思ってもらえること。『こんなワイン飲んだことない』『こんなに美味しいワインがあったなんて』そんな一言が聞けたらうれしいですね」

 

 

バイヤーとソムリエ、同じワイン業界にあってもまったくアプローチが異なるプロフェッショナルとして、世界各地に強力なパイプを持つ長谷川さん。

 

長谷川:「将来的には、生産者を招いてのワークショップや試飲会などの催しも開きたい。テロワール(産地の風土)や造り手の思いをどんどん紹介していきたいと思います」

 

来るたびに新しい発見がある、どこにもないワインに出合える。そんなエキサイティングなワインコーナーの準備が着々と進められています。

 

長谷川 憲輔(はせがわ・けんすけ)

大阪府枚方市出身。シンガポールの名店「アンドレ」で6年間シェフ・ソムリエとして従事。現在は国内各地のレストランのみならず、台北などでもワインセレクトやアドバイス、講演等を行っている。

GOOD NATURE JOURNAL編集部