「しくみとしかけをデザインする」POOL inc.が築いた、GOOD NATURE STATIONのコンセプト/前編

「しくみとしかけをデザインする」POOL inc.が築いた、GOOD NATURE STATIONのコンセプト/前編

「心と体にいいこと、もっと楽しもう。」

こんなコンセプトのもと、“GOOD NATURE”な新しいライフスタイルを京都から提案していこうと、昨年12月9日にグランドオープンしたGOOD NATURE STATION。有機野菜の販売をはじめとしたキッチン&マーケット、レストラン、カフェ、トータルビューティサロンやホテルまで、バラエティに富んだ商品・サービスを展開中です。

この施設のコンセプト・ブランディング構築からデザインワークまで、トータルディレクションを手がけたのがクリエイティブディレクターの小西利行さんが率いるPOOL inc.です。今回は時計の針を少し戻して、GOOD NATURE STATIONの根幹となったコンセプトなどのしくみとしかけづくりについて、POOL inc.のみなさんにお話を伺いました。

 

「ビオ」のハードルを下げる

(右から)クリエイティブディレクター・小西利行さん、クリエイティブディレクター・是永聡さん、アートディレクター・丹野英之さん、コピーライター・小林麻衣子さん

 

環境に配慮された心と体に優しいもの、そして生産者や作り手の顔や思いが見える商品の販売を通して、新しいライフスタイルと価値観を提供していこうと始まったのが、このGOOD NATURE STATIONの原点です。新しいライフスタイルの発信地となる施設を作り上げようとする過程でコンセプトやブランド構築に試行錯誤している中、私たちのプロジェクトに参加してもらうことになったのが、クリエイティブエージェンシーのPOOL inc.のみなさんでした。

 

是永:「2019年1月に開業した同じ京阪グループの施設である『THE THOUSAND KYOTO』のコンセプトづくりや、建築・内装などを手がけたのがご縁で、この新施設のプロジェクトにもお声がけいただきました」

 

小西:「僕たちがプロジェクトに参加したのは、施設開業の1年前。すでに有機JASの野菜の販売をするマーケットを作ることや、施設にラインアップする商品群や店舗がだいたい決まっていました。ただ、決まっていること多くがある一方で、世の中の人にどういう暮らしがしてほしいのかの提案がぼんやりしているなとも思いました。きっとストイックからカジュアルまで、人それぞれに『ビオ』の基準が曖昧だったからですが、ただ厳格にビオを基準にするとかなりストイックに見え、世の中からハードルが高いものとして受け取られるだろうという想像もできました。そこで、もう少しカジュアルダウンして、いろいろな人たちに楽しんでもらう方がいいのではないですか、と企画・運営担当のみなさんにお話ししたのを覚えています」

 

是永:「すでにすごくこだわった自社ブランドの化粧品や食品の開発が進んでいました。それと同時に本格的な有機野菜のマーケットも並行してやってらっしゃったので、わりと厳密なビオの方向に行かれている印象でしたね。ただ、四条河原町という京都の中心部で、マーケットもあればホテルもあるという複合型なので、単に施設を作るだけでなく、一緒ににぎわいも作るべきだと感じていました。その中でどう全体として舵を切るのかを考えるためPOOLのメンバーで議論を始めたんです」

 

GOOD/BADを自分で決める


新しいライフスタイルと価値観を発信する施設の礎を作る話し合いが続けられる中、POOL内で当初から共通認識だったのは「我慢するビオは広がらない」ということでした。

 

小林:「このプロジェクトに参加するにあたって、京阪ホールディングスの加藤好文CEOをはじめ、何十人もの現場スタッフのみなさんにインタビューを行いました。いろいろなお話を聞くと、今回は商業施設やブランドを立ち上げるというより、京阪グループの未来を担う事業をつくりたいという思いを感じたんですね。半年や1年で実現するプロジェクトではなく、新しいライフスタイルを生み出すビジョンを浸透させていかないといけないという責任を感じました。そのためにもストイックで近寄りづらい従来の正論のビオを掲げるのではなく、楽しく誰もが入って来られるように、我慢せず楽しむビオをというところからコンセプトを考え始めました」

 

小西:「ビオはビオで受け入れられているところはあるし、好きな方はそれでいいと思うんです。でも、一部の人だけが飲み込めるようなものではこの施設は難しくて、もう少しカジュアルで、みんなが『これいいよね』って憧れられるものであってほしいと思ったんです」

 

 

 


 

そんな話し合いの中からビオに代わる言葉として生まれたのが、のちに施設名にもなる「GOOD NAUTRE」というキーワードでした。

 

小西:「その言葉を使って、『HELLO GOOD NATURE!GOOD-BYE BAD NATURE!』という施設全体のモノゴトの選択基準も提案しました。自然や人間に対して悪いものを排除していった方がいいという暮らし方は、これから大切になっていくと思うんです。だからGOOD NATUREなものを選んでいきましょうという暮らし方がいいと思った。BAD NATUREという対比概念を置けば、GOODかBADかを自分で判断しやすいと思うんです。コンセプトは誰にとってもわかりやすく、行動する時の判断にならないと意味がないから」

 

小林:「また、何に対してGOODなのかが明確な方がわかりやすいかなと思ったので、『健康に良いか/心に良いか/地元に良いか/社会に良いか/地球に良いか』というものもコンセプトには加えました。そのすべてを満たさないとダメというわけではなくて、スタッフ一人ひとりの心で決められるくらいのユルさをもっていた方がいい。5つ中2つぐらいはまっていたらOKなど、自分の心で決めていいじゃないかと」

 

丹野:「ユルさが大事だと思うんですよ。GOOD NATUREに誰でも入りやすいことが大切というか。例えばビーガンやオーガニックをはじめとしたビオって取り組み始めると、どんどんストイックになっていっちゃうので、あとから入るのが難しくなっていく。新しく作るこの施設をニッチな場所にしたくなかったので、広い概念で誰でも参加しやすい造語がいいのかなということで、エピキュリアン(快楽的な)ナチュラルを実践しようという提案も含めてGOOD NATUREという言葉にたどり着きました」

 

コンセプトからフロアを創造する

 

 

 

 

それまでは「ビオ」という言葉だけが頼りで、スタッフそれぞれにとっても曖昧だったモノ・コトの判断基準。「GOOD NATURE」というキーワードのもと、GOODかBADかを問いかけることで、一人ひとりがすんなりと信じられるものを自信を持って選び、提案できるようになっていきました。

 

是永:「POOLではコンセプトやデザインのアイデアはもちろん、アクトコンセプトまで最初の段階で提案します。要はどういう行動をしていくか、スタッフのみなさんに考えてもらうためのコンセプトです。1階だったら収穫祭的なことでにぎわいを作りましょうとか、市場食堂みたいな形にしましょうとか。それぞれのフロアの担当の方がGOOD NATUREの中でどう行動してほしいかという指針をお渡ししました。その言葉の解釈に関してはそれぞれのフロアやスタッフのみなさんにお任せして、議論して答えを出していただく形になりましたね」

 

小西:「正直、この施設開発に関わっているみなさんは、僕らが参加した時点ですでにいいことをたくさんやられていたし、素敵な要素はたくさんあったんです。それを包含してひとつの活動として動かしていくコンセプトやデザインがなかっただけ。そこでアクトコンセプトとして『美味しい物語に出合うようにしてください』とか、『カーニバルみたいにしてください』とかそういうわかりやすいキーワードを置くんです。そうすると、スタッフ一人ひとりが自分で考えて動けるようになるんですよね」

 

こうしてPOOLによって具現化された“GOOD NATURE”というコンセプトをもとに、GOOD NATURE STATIONの開業に向けて歩みは加速していきました。次回後編でも引き続き、POOLのみなさんの思いに迫っていきます。

 

 

POOL inc.

https://pool-inc.net/

GOOD NATURE JOURNAL編集部
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