生産者との多様な関係性から生まれる、サステイナブルな農業の可能性

生産者との多様な関係性から生まれる、サステイナブルな農業の可能性

GOOD NATURE STATIONのエントランスゾーン「MAENIWA」では、ご来館いただいたお客さまに新しいニュースに触れていただけるよう、ここでしかできない購入体験をお届けしています。先日並んだのは、この真っ白でいかにも美味しそうなタケノコ。その日の朝、採れたばかりのものです。今回はその生産者である「市民農園 風緑(かざみどり)」の杉井正治さんによる丁寧な農業の姿を通して、私たちが一緒に進めようとしている新しい取り組みについてもご紹介します。

 

無農薬で丁寧に管理された竹林

京阪電車・龍谷大前深草駅から東へ約15分ほど歩くと、青々と生い茂る竹林が見えてきます。そこで出迎えてくれたのは「市民農園 風緑」の代表・杉井正治さんです。風緑では、春のタケノコをはじめとして、レモンやブルーベリー、トマトやパプリカなどさまざまな作物をすべて無農薬栽培で育てています。中でも力を入れているのが「白子タケノコ」と呼ばれる真っ白なタケノコ。日光に当たる前に収穫するため、透き通るような白い色でふくよかな形をしています。

 

杉井さんは農薬などに対するアレルギーがあったことから、安心して健康に農業に取り組むために無農薬で作物を育てる方法にこだわってきました。雑草が生えやすく管理が大変な竹林も、除草剤を一切使わず、草刈り機を使って丁寧に手入れを行っています。その竹林に足を踏み入れると、周辺の竹林と大きな違いを感じることができます。それは光。地面に太陽の光がまんべんなく当たるよう、300本ほどある竹が重なり合うことなく伸びているのです。

 

 

一定の長さまで成長した竹は先端を落とし、高くなり過ぎて日差しを遮らないように注意されています。竹の1本、1本には数字が書かれており、この数字から3年経つと伐採し、竹林には常に3年以内の新しい竹だけが育つ仕組みになっているのです。こうすることで、土の中のタケノコにしっかりと栄養分が行き渡り、味を均一に保つことができると言います。

 

白子タケノコの収穫

白子タケノコの収穫の様子を見せていただきました。普通のタケノコは地面から出た穂先を見つけて掘り始めますが、白子タケノコは地表に姿を表す前に掘り起こします。地割れが見られる場所に目星をつけ、「ほり」という長い刃のついた鍬のような専用の道具を使って掘り進めます。タケノコが伸びている方向を見極め、傷つけないよう慎重に掘らなければいけません。

 

 

 

 

 

杉井:「タケノコは日光を浴びると味にえぐみが出るのです。でも、私たちが育てた白子タケノコは日光を浴びる前に掘り出すので、えぐみが少なく、糠と一緒に茹でてあく抜きをする必要もありません」

 

その場で採れたタケノコを生でいただくと、切り口は驚くほど真っ白で、噛むとじゅわっと水分が広がります。えぐみを感じることはほとんどなく、タケノコというよりも梨や大根を食べているような瑞々しい食感。今まで食べていたタケノコとはまったく違う味に驚きます。

 

サステイナブルな農業のために

杉井さんは農業のあり方自体にもさまざまな工夫を凝らしています。入れ替えのために伐採した竹を専用の機械で粉砕し、肥料チップにして再利用。チップを土に撒くことで、竹の持つ栄養や水分が土壌に浸透し、良質なタケノコが育つのだそうです。こうした取り組みは、作物の品質向上や安定した供給につながるだけでなく、将来、農業に従事したいと考える人のためでもあると杉井さんは話します。

 

 

杉井:「竹の成長を自然任せにしていては、採れ高や味にブレがでてしまいます。しかし、こうしてきちんと仕組み化すれば、若い人にも継続できる農業になると思います。また、タケノコだけに頼るのではなく、1年間を通して収穫できる作物を育てたり、貸し農園業を行ったり、地域のみなさんにも農業を身近なものとして楽しんでいただける複合的な取り組みを行っています。そうすることで、農業は収入が不安定だというイメージを払拭し、農業の担い手を増やしていきたいのです」

 

美しい竹林でのアクティビティ

杉井さんとGOOD NATURE STATIONのつながりが生まれたのは、およそ2年前。店舗開発部マネージャーである本山喜之が、竹を粉砕して作ったチップを仕入れたいと杉井さんに相談したことから交流が始まりました。何度か訪れるうち、どの季節も手入れされた美しい竹林を見て、この場所を農業以外にも活用できるのではないかと考えるようになったと言います。

 


 

本山:「竹林に入った瞬間、すごく気持ちいいなと感じたんですね。竹の間から射し込んでくる木漏れ日や、遠くから聞こえる鳥の声。そこで、もっと多くの人に体験していただくために、タケノコの収穫体験や竹林浴を楽しんでいただくアクティビティを実施したいと考えました」

 

GOOD MATURE STATIONでは、生産者の方のもとを訪れ、自然の中での農業体験などができるGOOD MATURE ACTIVITYを定期的に開催しています。こちらで行った「白子タケノコ収穫体験」のアクティビティでは、杉井さんたち生産者の方々に直接レクチャーをしてもらいながら、参加者の方々にタケノコを掘っていただきました。レジャーとしてではなく、実際に生産者の方が行うリアルな収穫のやり方を体験していただくことで、農業に携わる人々の苦労や喜びも感じていただけるようにしたいと考えています。

 

 

 

また、その他にも竹林でのピクニックや、無農薬レモンや木苺の収穫をするアクティビティも現在計画中。年中いろいろな作物が採れる風緑だからこそ魅力的なアクティビティが生まれ、またそのアイデアを柔軟に受け入れてくれる杉井さんがいるからこそ、実現できるのです。ふと耳を傾けると、ウグイスの鳴く声が聞こえてきました。すると、杉井さんが「あれはウグイスの子供が鳴く練習をしとるんですよ」。やがて立派な成鳥の鳴き声に変わるそう。こうしたやり取りもアクテビティの楽しみの一つです。

 

 

本山:「アクティビティを実施することで農家の方の収入の枠が広がれば、その分、作物を安価で提供していただくことも可能になります。そうすれば、今までオーガニック=高いと思っていた方にも購入していただけると思うのです。気候の変化や採れ高によって収入が不安定だった農家の方にも、安定した収入を得ていただけるメリットもあります。今後はレストランやパティスリーで使用する鮮度が大切な野菜や果物を育ててもらい、朝採れたものを出荷してもらう計画もあります。これは近くにあるからこそできること。単なる売買の関係ではなく、もっと多様な関係性を築いていきたいのです」

 

作物を販売するだけではなく、生産者の方が持つさまざまな魅力を、お客さまに楽しんでいただけるように発信していくこともGOOD MATURE STATIONの役割の一つ。MAENIWAでの販売やアクティビティなど、さまざまな形で今後もみなさまにお届けしていきます。

GOOD NATURE JOURNAL編集部
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